ようやく一段落

ここ1ヶ月ほどとあるプロジェクトに没頭していました。訪問研究中にお世話になった先生とのプロジェクトで、去年に引き続きトップカンファレンスへの投稿を目指して集中的に仕事をしてきました。今回も色々学ぶことが多かったので、忘れないうちに簡単にメモしておこうと思います。

  • 実力差よりも努力の差

やはりこれに尽きるんじゃないかと思いました。一緒に仕事をした人たちは皆優秀であることには違いないのですが、その差よりもいかに努力するか、時間をさくかということの方が大きいように思います。技術そのものでは正直日本の研究者も負けていないと思いますし、自分自身、まだまだ修行することはあるものの、十分に通用するという感想を持ちました。大学時代の恩師が研究者にとって大事な資質というものを教えていただいたことがあるのですが、そのひとつがパッションでした。これがなければパワーは出てこないのだと思います。教授も学生も本当に良く働いてくれます。これに刺激されて自分も負けずにやりました。最後の最後までやりきったのでまったく悔いはないですし(もちろん future work はありますけどね)、これで非採録だったらアホな査読者にあったのだろうなと言い切る自信もあります。今回も本当にぶっ倒れるんじゃないかというくらいによく仕事をしたのですが、それでもう嫌になるということはまったくなくて、またもう一仕事やってやろうという気持ちでいっぱいです。それも精力的な仲間と一緒に仕事ができたからではないかと思います。ある期間を決めてチームとして集中的に仕事をやることのパワーを改めて認識できました。

少しここの節に追記ですが、ある仕事の完成度を高めるときに8割まで完成させるのに必要な力が2割だとすると、残りの2割を完成させるのに必要な力が8割だというような話があります。そしてこの最後の2割を埋めるか埋めないの差は競争が激しい分野にあっては相当に大きいように思います。論文を well-written にすることばかりが大事だとは思わないのですが、そもそも全体として一貫性があり、キーポイントの妥当性を主張するために周辺の細かいことも網羅的にカバーした仕事をするためには、やはり相当量の仕事量が必要だと思います。元となるアイディアそのものは最初の8割で、その妥当性を示す部分が残りの2割かもしれませんが、この残りの2割の部分をいかに頑張るかがメインのアイディアに説得力を持たせる最良の方法なのではないかと思います。アウトプットが論文ではなく、ソフトウェアであるような場合でも、メインのアルゴリズムそのものはわりと簡単に、つまり2割の力で実装できたとしても、ソフトウェアが実際の運用に供するためには周辺的な諸々のことを8割の力で埋めていかなければならないはずで、その部分なしにはプロトタイプとしてもアピールが弱いんだろうなぁと思います。そしてそこの部分には王道はなくて、とにかくやるしかないのではと思いました。

  • ビジョン共有の大切さ

今回は前回と異なり、日米での仕事となりました。メールや gtalk でかなり頻繁なやりとりをするのですが、大きな変更を決断するときや今後の方針を考える際にはミーティングが必要となります。ひと月くらい前から週1のペースで電話会議を始めましたが、これはとても有効でした。大きな変更の決断をしなければいけないときにはやはり声でのやりとりをする方がお互いに伝わりやすいですし、その変更がビジョンそのものにも影響を与えることがありますので、互いに情報を常にアップデートし続けていくことが大事だと思います。最後の一週間はほぼ毎日の電話会議でした。こちらの早朝で先方の夕方という時間帯でしたが、最後の方はかなり慣れてきました。

  • 継続すること

今回のようなプロジェクトを教授は2,3プロジェクト持っていたりします。そして、プロジェクト毎に1人ないしは複数の学生がいるわけですが、それぞれの学生は学位を取得するまでにこのようなプロセスを年に4,5回繰り返します。Networking Research系ですと、2月のSIGCOMM, USENIX/security, 5月のIMC, 8月のINFOCOM, 10月のNSDI, 11月のSIGMETRICS...という感じでしょうか。Wireless系の人は Mobicom もありますし、システムよりの人は OSDI もあります。学位をとるまでに最大で20回くらい繰り返す学生もいるのではないかと思いますが、これは鍛えられて当然だと思います。自分も今年度中はあと2回くらいはこのようなプロセスを実現したいと思っています。

  • やっぱり英語

一緒に仕事をした学生はまだ駆け出しの研究者なので、統計の取り方、データの分析の仕方、プログラミング等々色々と教えてあげることも多く、自分としては英語を鍛える良い機会としてとても好都合でした。しかしこれは圧倒的に差があるなぁと感じたのは、その学生さんがまずは下書きとして書いた write up を読んだときでした。大まかなところで色々と直すべき点やアピールの仕方等直すべきところはもちろんあるのですが、当たり前のことながら英語の表現はやはり相当にうまいなぁというか、なるほどそういう表現があるのかと感心しました。この部分の差は日本人研究者としてはかなり覚悟をしなければいけないところで、チャットなんかでも話している速度が相当に違うのがそのまま文章を書く作業時間の差に表れてきます。読めるのはもちろん読めるのですが、書く/話すことはとにかく使って覚えていくしかなさそうです。

  • 色々な人と仕事をする

今回自分がそうであったように、色々なやり方、進め方、考え方を横で見ているのはとても勉強になります。今回も svn を使って仕事をしたのですが、各人がどのような時間帯にどのようなアップデートをしたかということを見ていくのはとても参考になりましたし、メールでの膨大なやりとりもとても貴重な財産となりました。人間そのものと同じで、仕事の仕方も意識的に多様性を取り込んでいくことが仕事のやり方そのものを進化させる上で大事だと思います。日本の中にいても社外は元より、国内外の様々な人と仕事をできるようなチャンスを積極的に作っていきたいと思います。