トップカンファレンス

久々に論文投稿ネタを書いてみる。2013年に現職についてから5年半、また2014年ゴールデンウィークの初チャレンジから4年半、ようやく紛れもないトップカンファレンスに論文が採録された。この日記でも「トップクラスの会議」の採録に関しては何度か書いてきたけれど、今回のは採録率10%強の分野最高峰の会議なので、申し分ない。

 

採録メールを読んだのは某カレー屋で注文した超極辛の牡蠣カレーが届くを待っている時で、pleased to inform you の文字が目に飛び込んできた時の嬉しさは、一番最初に論文が採録された時(もう15年くらい前か・・)の嬉しさに匹敵した。思わず歓喜の声が出そうになるのをぐっと抑えて、味もよくわからない内に辛いカレーを胃袋に流し込んだ。ちなみに初めての採録は初回投稿から立て続けに2回落ちた後の3度目の正直で、その晩は夜も遅いのに妻に付き合ってもらい、近所のイタ飯屋まで自転車を漕ぎ、ささやかな祝杯をあげた。それからというものの、論文が通った時は必ず祝杯をあげるようにしている(セルフ祝杯率が高いのだけど)。

 

本当に文字通り「ようやく」の採録だった。その論文は数度のリジェクトを経てからの採録で、粘り勝ちだった。リジェクト通知を受ける都度めげることなく、すぐに客観的にフィードバックをまとめて、淡々と追加実験とリバイズを繰り返してきた。その作業の先鋒に立った学生の「やり抜く力」が凄かった。Gritという言葉は彼のためにあるのではないかと思えるほど。一般に論文は一度でも落ちると落胆するものだけど、彼は数度のリジェクトに対して落ち込むどころかその状況を明らかに楽しんでいるようだったし、淡々とやるべきことをやる姿勢を貫いた。おそらく昔からそういう態度で生きてきていると思うので、研究遂行に必要となる様々な基礎知識や技術が十二分に身についている。投稿作業を通じて、自分からも技術文書の構成や、仕事計画の立て方など、一定のものを多少なりとも学んでもらえたのではないかと思う。研究室のゼミでも何度もリジェクトされた状況と今後の計画に関する話を発表してくれた。後輩の学生にとって、非常に模範的なロールモデルになった。

 

Gritが高い学生に恵まれたことに加えてもう一つ良かったのは、この研究は実験の準備が非常に大変で、他人に真似される確率が低かったこと。以前、下記に書いた dip の好例だったように思う。dip は深い谷のあとにそびえる崖のようなもので、dip を越えるのはとてもむずかしいし、下手するとdipの先が袋小路になる場合もある。うまいこと袋小路にはなっていないdipを越えて上にたどり着くと、他の人は簡単にのぼってこられないので、そこに到達できた人のみが得られるメリットがある。今回の場合、模倣される心配をせず、何度もチャレンジすることができた。

論文の締め切りと dip - valdzone’s blog

 

ここしばらくずっと目標にしていたことのファーストステップをクリアできたので、更に遠くのステップを目指したいと思う(例えば、ミーハーな目標で言えばセキュリティTop4のグランドスラムとか)。泥臭いながらも一度は成功体験を得ることが出来た。これまでに何度もリジェクト通知を受けて、なんとなく戦い方もわかってきた。一緒に進んでいく学生や研究仲間と切磋琢磨して、引き続きトップカンファレンスを目指していければと思う。幸い、研究室のOB・現役には今回の筆頭著者学生に限らずGritが高い人達がいる。日頃研究をご一緒させて頂いている外部の研究仲間も同様である。自分は優秀な彼らに負けじと、「粘り腰」だけは達人レベルになった。しつこく粘っている内に何か身についてきたものもあると感じる。そして大型予算の獲得や研究拠点の構築などにはあまり興味がないのだけど(予算よりは時間がほしい)、日本の研究コミュニティ全体の世界での活躍に、少しでも貢献したいと切に願う。大変ささやかながらも、そんな想いの活動も始動しつつある。

 

と、同時に以前に書いた下記を参照して、あくまでも論文は「副産物(バイプロダクト)」であることを念頭に、将来(必ずしも現在でなくても良い)役に立つ技術を生み出していきたいと強く思う。トップカンファレンスに論文を通す意義は研究の質を高めること、研究を広めることであって、採録されたこと自体に意義を見出してはいけない。マイルストーンのひとつである。

トップカンファレンスの価値 - valdzone’s blog